こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

(……楓の家族に、今日、私は“妻”として会うんだ)

その現実が、静かに、確かに迫ってきていた。
 胸の奥がぎゅっと縮まり、呼吸が浅くなる。

スタッフが控室を出ていくと、 部屋には私ひとりだけが残された。

鏡の中の自分は、 白いドレスに包まれ、
 髪は丁寧にまとめられ、
 まるで別人のように“花嫁”になっていた。

(……本当に、私でいいのかな)

喪失の痛みを抱えたまま、 何度も立ち止まり、
 何度も泣いて、 それでもここまで来た。

楓がいなければ、
 私はきっと今日という日を迎えられなかった。

胸の奥がじんわりと熱くなる。

そのとき——
 控室の扉がノックされた。

「明莉さん。新郎のご家族がお見えです」

心臓が跳ねた。
 指先が震える。
 喉がきゅっと締まる。

(……いよいよ、なんだ)

扉が静かに開く。

最初に入ってきたのは、 落ち着いた雰囲気の女性だった。
 上品な紺色のドレスに身を包み、
 柔らかい笑みを浮かべている。

「初めまして。楓の母です」

その声は驚くほど優しくて、
 緊張で固まっていた胸の奥が少しだけ緩んだ。

「……は、初めまして……佐伯明莉です」

深く頭を下げると、
 彼女はそっと私の手を取った。

「今日という日を迎えてくれて、ありがとう。
 楓が……あなたと出会えて、本当に良かったと思っています」

その言葉に、胸が熱くなる。
 涙がこぼれそうになるのを必死に堪えた。

続いて、楓の父が入ってきた。
 厳しそうな印象だったが、 私を見ると静かにうなずいた。

「楓を……よろしくお願いします」

短い言葉。
 けれど、その一言に込められた重さと温かさが胸に響いた。

私は震える声で答えた。

「……こちらこそ……よろしくお願いいたします」

その瞬間、
 胸の奥にあった“恐れ”が少しずつ溶けていくのを感じた。

(……大丈夫。私は、選んだんだ)

楓の隣に立つことを。
 過去ではなく、未来を見て歩くことを。

控室の扉が再びノックされた。

「新郎がお迎えに来られました」

心臓が跳ねる。
 胸の奥が熱くなる。

扉が開き——
 そこに、白いタキシード姿の楓が立っていた。

その瞳は、 迷いも不安もなく、
 ただまっすぐに私だけを見ていた。