こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

春の夕陽が差し込む病室で、
 二人の距離は静かに、確かに縮まっていく。

楓は、明莉の言葉を胸の奥で噛みしめるように、
 ゆっくりと息を吸った。

「……明莉さん」

呼ぶ声が、先ほどよりも深かった。
 その声には、長い年月の想いと、
 ようやく届いた安堵が滲んでいた。

明莉は、楓の手を握ったまま、
 その温度を確かめるように指先を震わせた。

(……選んだんだ、私……)

誰かに言われたからでも、
 守られたからでもなく、
 逃げ場がなくて寄りかかったわけでもない。

“自分の意思で”
 “自分の言葉で”
 楓を選んだ。

その事実が、胸の奥をじんわりと温めていく。

楓はそっと明莉の頬に触れた。
 その指先は、驚くほど優しくて、
 まるで壊れ物を扱うように丁寧だった。

「……あなたがそう言ってくれて、本当に嬉しい」

明莉の胸がきゅっと締めつけられる。
 楓の声は、静かで、深くて、
 どこまでも真っ直ぐだった。

「俺は……あなたの隣に立てるなら、それでいいんです。
 肩書きも、家柄も、全部どうでもいい。
 あなたが俺を選んでくれたことが……何よりも大切なんです」

明莉は涙をこぼした。
 でもその涙は、もう“痛み”の涙ではなかった。

「……楓さん……」

名前を呼ぶ声が震える。
 けれど、その震えは“幸せが胸に入りきらない”震えだった。

楓は明莉の手をそっと引き寄せ、
 額を軽く触れ合わせた。

触れた場所から、
 静かに、確かに温度が広がっていく。

「これからは……二人で前へ進みましょう」

明莉は目を閉じ、
 その言葉を胸の奥でそっと抱きしめた。

「……はい……楓さんと……」

夕陽がゆっくりと沈んでいく。
 春の終わりの光が、二人の影を柔らかく重ねていた。

その影は、
 もう“契約”ではなく——
 “選んだ未来”として寄り添っていた。