こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

「…楓さん……私……あなたが……好きです……」

その瞬間、楓の胸の奥で何かがほどけた。
(やっと……届いた)

楓は明莉の手をそっと包み込んだ。

「明莉さん。これからは……契約じゃなくて、本当の意味で……俺の隣にいてくれませんか」

その言葉に、明莉は涙の中で微笑んだ。
 弱さでも、迷いでもない。
 ようやく心が“誰かに寄りかかること”を許した人の微笑みだった。

「……はい……楓さんの隣に……いたいです……」

その笑顔は、今まで見たどんな笑顔よりも柔らかくて、温かかった。
 楓の胸の奥で、長い年月の想いが静かにほどけていく。

楓はそっと明莉の額に触れた。
 触れた指先は、祈るように優しかった。

「ゆっくりでいい。急がなくていい。あなたのペースで……一緒に歩いていきましょう」

明莉は小さくうなずいた。

「……はい……」

病室の静けさの中で、二人の手はしっかりと結ばれていた。
 その結び目は、契約でも義務でもなく、
 “選んだ想い”で繋がれたものだった。

楓は明莉の手を包んだまま、
 そっと自分の額を明莉の額に寄せた。
 触れ合う距離で、互いの呼吸が静かに重なる。

「……明莉さん。あなたが笑ってくれるなら……それだけで、僕は前へ進めます」

明莉は涙を拭い、
 震える声で、けれど確かな想いを返した。

「……私も……楓さんとなら……前へ進めます……」

その言葉に、楓は目を閉じた。
 胸の奥が熱く、静かに満たされていく。

——楓が御曹司であることを、明莉はまだ知らない。
 けれどそれでいい。
 今はただ、“重森楓”として彼女の隣にいたかった。
 肩書きも、家柄も、過去も関係ない。
 守りたいと思ったのは、ただひとりの明莉だった。
夜の静けさが、二人の新しい始まりをそっと包み込んでいた。