こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

「あなたのことを、守りたいと思っています」

その言葉に、胸がきゅっと締めつけられた。昨日も聞いた言葉。けれど今日は、少し違う響きがあった。覚悟のような、決意のような、逃げ場のない真剣さがあった。

楓は続ける。

「今のあなたは……とても脆い状態です。心も、身体も。そして、世間は残酷です」

明莉は息を呑んだ。芸能界の冷たさを、誰より知っている。噂は一瞬で広がり、真実よりも先に人を傷つける。

「佑輔さんのことも……あなたが流産したことも……公になれば、あなたはきっと傷つく」

その通りだった。想像するだけで、胸が苦しくなる。息が浅くなる。心の奥の傷が、また疼き始める。

楓は深く息を吸い、真剣な眼差しで言った。

「だから……提案があります」

明莉の心臓が、ひとつ大きく跳ねた。空気が静まり返り、時間がゆっくりと流れ始める。

「僕と――契約結婚をしませんか」

時間が止まったように感じた。呼吸の仕方を忘れるほど、世界が静かになった。

「……け、結婚……?」

声が震える。自分の声なのに、どこか遠くから聞こえるようだった。

楓は頷いた。

「もちろん、形式だけです。あなたを守るための“契約”です」

明莉は言葉を失った。楓は続ける。その声は、揺らぎなく、まっすぐだった。

「あなたがひとりで背負う必要はありません。世間からも、仕事からも、過去からも……あなたを守る“盾”が必要なんです」

楓の瞳には、迷いがなかった。押しつけではなく、救いでもなく、ただ静かな覚悟だけがあった。

「僕は……あなたを守りたい。そのために必要なら、どんな形でも構いません」

明莉の胸の奥で、何かがゆっくりと揺れた。痛みと戸惑いと、信じたい気持ちが混ざり合う。

世界が壊れたあと、初めて差し出された“未来の形”。

その重さに、息が震えた。