こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

「……私も……楓さんと……前へ進みたい……」

その言葉は、涙の中で生まれた、
 明莉自身の“選択”だった。

楓の指が、わずかに震えた。
 けれどその震えは、不安ではなく——
 長い年月の想いがようやく届いた証のようだった。

明莉は、楓の手の温度を確かめるように握り直した。
 その瞬間、楓の表情が静かにほどけていく。

「……明莉さん」

名前を呼ぶ声が、先ほどよりも深かった。
 胸の奥から、まっすぐに届く声だった。

楓はゆっくりと身を寄せた。
 急がない。
 焦らない。
 ただ、明莉の選んだ“未来”を尊重するように。

明莉も、逃げなかった。
 涙で濡れたままの瞳で、楓を見つめ返す。

その視線が重なった瞬間——
 二人の距離は、自然に、静かに縮まっていった。

楓は明莉の頬にそっと手を添え、
 そのまま、ためらいなく——
 けれど優しく、丁寧に——

明莉の唇に触れた。

深くない。
 強くない。
 ただ、確かめるような、
 “これから”を誓うようなキスだった。

明莉は目を閉じた。
 胸の奥が熱くて、痛くて、
 それでも、どこまでも優しい。

(……ああ……やっと……)

長い間、凍りついていた心が、
 静かに、確かに溶けていく。

楓はゆっくりと唇を離し、
 明莉の額にもう一度そっと触れた。

「……これからは、一緒に前へ進みましょう」

その声は、祈りでも、願いでもなく——
 “約束”だった。

明莉は涙の中で微笑んだ。

「……はい……楓さんと……」

病室の静けさの中で、
 二人の未来が、確かに動き始めた。