こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

二人の手は離れず、
 病室の静けさの中で、
 未来へ向かう温度だけが確かに重なっていた。

その温度を感じながら、
 明莉はふと、胸の奥に引っかかっていた問いを口にした。

「……玲奈は……?」

その問いに、楓は明莉の手を包み込んだまま答えた。

「もう大丈夫です。二度とあなたに近づけません」

明莉はほっと息を吐いた。
 けれど、すぐに表情が曇る。

「……私……また……誰かを傷つけたんじゃないかって……怖くて……」

楓は静かに首を振った。

「違います。あなたは誰も傷つけていません」

「でも……私が……佑輔のことも……玲奈のことも……ちゃんと向き合えなかったから……」

涙がこぼれ落ちる。
 楓はそっと明莉の頬に触れた。
 触れた指先は、驚くほど優しかった。

「明莉さん。あなたは優しすぎるんです。
 自分のせいじゃないことまで、全部背負おうとする」

「……楓さん……私……あなたに……迷惑ばかり……」

その言葉を、楓はすぐに遮った。

「迷惑なんかじゃありません」

明莉が驚いたように目を見開く。
 楓はその視線をまっすぐ受け止め、
 静かに、けれど揺るぎない声で続けた。

「あなたが苦しむなら、そばにいたい。
 あなたが泣くなら、支えたい。
 あなたが立ち上がる日まで……僕は離れません」

その言葉は、慰めではなく“選択”だった。
 楓自身が、長い年月の中で選び続けてきた答え。
 そして——それは、初恋の続きでもあった。

明莉は、握られた手の温度を確かめるように指先を震わせた。
 胸の奥が熱くて、痛くて、どうしようもなく揺れていた。

「……どうして……そんなふうに……」

かすれた声で絞り出すように言う。
 涙が止まらないのに、楓の顔を見ようとしてしまう。

楓は逃げなかった。
 まっすぐに、静かに、その瞳を見つめ返した。

明莉の呼吸がまた止まりそうになる。

楓は、そっと明莉の手を胸元へ引き寄せた。
 その仕草は、告白よりも深く、
 言葉よりも確かな想いを伝えていた。

「……あなたが、ずっと……好きだったからです」

明莉の瞳から、静かに涙がこぼれた。
 けれどその涙は、もう“痛み”だけの涙ではなかった。

楓はそっと明莉の額にもう一度唇を寄せた。
 今度は、先ほどよりも長く、
 未来を誓うように、静かに触れた。

明莉は目を閉じ、
 その温度を受け止めた。

(……前へ進んでいい……
 楓さんと一緒に……)

胸の奥で、確かにそう思えた。