こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

「理由なんて……最初から決まっていました」

明莉の呼吸がまた止まりそうになる。
 胸の奥がぎゅっと縮まり、
 涙がこぼれそうなほど、楓の声はまっすぐだった。

楓は、明莉の手を包み込んだまま、
 ゆっくりと言葉を紡いだ。

「……あなたが、ずっと……好きだったからです」

その瞬間、
 病室の空気が静かに震えた。

告白というより——
 長い年月を経て、ようやく“本来の場所”に戻ってきた言葉だった。

明莉の瞳が大きく揺れる。
 涙が溢れ、頬を伝い落ちる。

「……私……そんな……価値なんて……」

かすれた声で言うと、
 楓はすぐに首を振った。

「あります。誰よりも」

その言葉は、迷いも、揺らぎもなかった。

「あなたは……誰かを救おうとして泣いて、
 誰かの痛みに寄り添って傷ついて……
 それでも前を向こうとする人です」

明莉の肩が震える。

「そんなあなたを……好きにならない理由なんて、どこにもありません」

明莉は唇を震わせた。
 涙が止まらないのに、
 楓の顔を見ようとしてしまう。

「……楓さん……」

名前を呼ぶ声が、震えていた。
 けれど、その震えは“恐怖”ではなく——
 “心がほどけていく音”だった。

楓はそっと明莉の頬に触れた。
 その指先は、驚くほど優しくて、温かかった。

「明莉さん。あなたが前へ進むなら……僕はその隣にいたい」

明莉の胸の奥で、
 何かが静かに、確かにほどけていく。

そして——

明莉は、楓の手に自分の手を重ねた。

「……私も……楓さんと……前へ進みたい……」

その言葉は、涙の中で生まれた、
 明莉自身の“選択”だった。