こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

静寂。

扉が閉まった瞬間、
 世界がひとつ消えたように感じた。

楓の影が消え、
 取り調べ室の空気が急に冷たくなる。

(……終わった……)

その言葉が胸の奥に沈んでいく。

楓の声がまだ耳に残っていた。

——奪ったのはあなたです
——あなたが壊したんです
——明莉さんは、あなたに謝られる必要はありません

ひとつひとつが、
 心の奥の柔らかい部分に突き刺さる。

「……そんな……つもりじゃ……なかったのに……」

声に出した瞬間、
 その言葉がどれほど空虚か、自分でもわかった。

佑輔の笑顔。
 明莉の怯えた瞳。
 楓の冷たい視線。

全部、自分が壊した。

(私は……何をしてきたの……?)

震える手で顔を覆う。
 涙が指の隙間から落ちていく。

誰もいない。
 誰も振り向かない。
 誰も名前を呼ばない。

明莉も、佑輔も、楓も——
 もう二度と、自分の世界には戻ってこない。

「……ごめんね……明莉ちゃん……」

かすれた声が、狭い部屋に吸い込まれていく。

返事はない。
 許しもない。

ただ、冷たい蛍光灯の光だけが、
 玲奈の震える肩を照らしていた。