こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

「佑輔くんが死んで……もうどこにも行けなくなって……
 気づいたら……明莉ちゃんが……“全部奪った人”になってた……」

楓は黙って聞いていた。
 玲奈の声は震え、壊れた心の奥から漏れ出すようだった。

「佑輔くんの気持ちも……私の居場所も……
 私の大事なものも……全部……明莉ちゃんが持っていったように見えたの……」

そして——
 玲奈はゆっくりと顔を上げた。

「だから……明莉ちゃんを……取り戻したかった……
 私のものに……戻したかった……」

その言葉は、狂気と喪失が混ざった、痛々しい本音だった。
 愛ではなく、執着。
 救いではなく、支配。

楓は静かに口を開いた。

「……玲奈さん。あなたが失ったものを、明莉さんのせいにしないでください」

玲奈が顔を上げる。
 その瞳は揺れ、迷い、縋るように震えていた。

「喪失は、誰かを所有する理由にはならない」

玲奈の目が大きく揺れる。
 その言葉は、彼女の胸の奥に鋭く突き刺さった。

「あなたが求めたのは“救い”ではなく、“支配”です」

玲奈の肩が震えた。
 否定したいのに、否定できない。
 その事実が、彼女の心をさらに追い詰める。

楓は続けた。

「あなたは、俺と明莉さんの関係を“偽物”だと言った」

玲奈の唇が震える。
 わずかな勝ち誇りが、その目に浮かんだ。

だが——

「しかし、契約であろうと、法律上は“夫婦”です」

玲奈の表情が固まる。
 その瞬間、彼女の中で何かが崩れ落ちた。

「あなたが踏み込んだのは、夫婦の生活と安全です」

刑事が静かにメモを取る。
 蛍光灯の白い光が、玲奈の震える肩を照らしていた。

楓の声は静かだったが、
 その静けさの奥には、揺るぎない“線引き”があった。

(これで終わらせる。
 明莉の恐怖も、玲奈の執着も——今日で終わらせる)

楓の決意は、冷たく、深く、揺らぎがなかった。