こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

鉄の扉の前で、刑事が楓に向き直った。

「重森さん。あくまで“被害者側の参考人”としての立ち会いです。感情的にならない範囲でお願いします」

楓は静かにうなずいた。

「わかっています」

声は落ち着いていたが、
 胸の奥には冷たい決意が沈んでいる。

(感情ではなく、線引きをする)

明莉の未来と、玲奈の執着を切り離すための線引き。
 そのために、ここに来た。

扉が開いた。

取り調べ室の中は狭く、
 蛍光灯の白い光が机の上を冷たく照らしていた。

玲奈は椅子に座っていた。

髪は乱れ、目は赤く腫れ、
 両手は震えている。

かつての華やかな女優の面影なんて、どこにもなかった。

楓を見ると、怯えたように肩をすくめた。

「……重森さん……」

その声は、かつての明るさの欠片もなかった。
 壊れたガラスのように、弱く、脆い。

楓は正面に座った。

刑事が録音機を起動する。
 小さな電子音が、部屋の空気をさらに張りつめさせた。

楓はまっすぐに玲奈を見つめた。

(ここで終わらせる。
 明莉の恐怖も、玲奈の執着も——今日で終わらせる)

静かな決意が、楓の胸の奥で確かに燃えていた。