こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

病院の廊下は、夜の静けさをそのまま閉じ込めたように冷たかった。
 空調の微かな音だけが響き、世界が一度止まったように感じられる。

明莉は眠っている。

医師から「峠は越えた」と聞いたとき、
 胸の奥で張りつめていた糸が切れたように、
 その場に座り込んでしまった。

けれど——

まだ終わっていない。

(玲奈を……終わらせなければ)

明莉が安心して眠れる世界を作るために。
 もう二度と、彼女が怯える必要のない未来を作るために。

楓はゆっくりと立ち上がった。
 その動きには迷いがなく、静かな決意だけが宿っていた。

明莉の寝顔を一度だけ見つめる。
 その頬に残るかすかな青ざめが、胸を締めつける。

(守る。必ず)

心の奥で、静かに、深く誓う。

そして——
 楓は病室を出て、冷たい廊下をまっすぐに歩き始めた。

向かう先は、警察署。

すべてを終わらせるために。