こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

朝の光がカーテン越しに差し込み、部屋を淡く照らしていた。明莉はゆっくりと目を開けた。昨日よりも少しだけ、胸の痛みが軽い気がした。

けれど、心の奥の空洞は埋まらない。佑輔の声も、赤ちゃんの気配も、まだそこにある。消えたわけじゃない。ただ、静かに疼いている。

「おはようございます」

振り向くと、楓がキッチンから顔を出した。エプロン姿が妙に似合っていて、思わず目を瞬いた。その姿が、どこか日常の温度を思い出させる。

「……おはようございます」

声はまだ弱い。でも、昨日よりは少しだけ自然に出た。その小さな変化に、自分でも気づいていた。

楓はテーブルに朝食を並べながら、明莉の様子をそっと観察しているようだった。押しつけがましくなく、でも確かに気遣っている。

「無理に食べなくていいですが……少しでも口にできたら」

明莉は頷き、スープを一口飲んだ。温かさが喉を通り、胸の奥に広がる。その温度が、心のどこかをそっと撫でる。

「……ありがとうございます」

その言葉に、楓は小さく微笑んだ。その微笑みは、昨日よりも柔らかかった。

しばらく沈黙が続いた。けれど、その沈黙は昨日のような重さではなく、どこか柔らかい空気を含んでいた。言葉がなくても苦しくない沈黙——そんな時間だった。

やがて、楓が静かに口を開いた。

「明莉さん。ひとつ……話したいことがあります」

その声は、いつもより少しだけ緊張していた。明莉はスプーンを置き、楓を見つめる。胸の奥が、ゆっくりと波立つ。

——何を話すつもりなのだろう。

朝の光が静かに揺れ、二人の間に落ちていた。