こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

救急車が病院の前に滑り込むと同時に、扉が勢いよく開いた。

「搬送します! 意識レベル低下、出血あり!」

隊員の声が飛び交う。
 楓は明莉の手を握ったまま、走るストレッチャーに並走した。

「明莉さん……! 大丈夫です……僕がいます……!」

返事はない。
 まぶたは閉じたまま、呼吸は浅く、
 その小さな身体は揺れるたびに痛々しく見えた。

処置室の前に到着すると、医師たちが一斉に明莉を囲んだ。

「ご家族の方はここまでです!」

楓の手が、強制的に離された。

「待ってください……! 明莉さんは……!」

「すぐに処置します。ここでお待ちください」

扉が閉まる。
 白い光が遮断され、
 楓はその場に立ち尽くした。

手のひらには、明莉の血がまだ温かく残っている。

(……守れなかった)

胸の奥が、ゆっくりと沈んでいく。
 怒りでも、恐怖でもない。
 ただ、どうしようもない悔しさだけが残った。

壁に手をつき、楓は深く息を吐いた。

(明莉さん……どうか……)

祈るように、願うように、
 ただひとつの名前だけを胸の中で繰り返す。

そのとき、処置室のランプが赤く点滅した。

楓の心臓が、強く跳ねた。