こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

腕の中で、明莉がゆっくりと沈んでいく。
 その温度が、少しずつ失われていく。

楓の胸の奥で、何かが静かに、確実に切れた。

「……明莉さん……!」

震える声で呼びかけながら、楓は彼女を抱きしめた。
 血の匂いが、現実を突きつけるように鼻を刺す。

その背後で——
 玲奈が震える声で呟いた。

「……私……そんなつもりじゃ……
 明莉ちゃんを……傷つけるつもりなんて……」

その声を聞いた瞬間、
 楓はゆっくりと顔を上げた。

涙で滲んだ視界の奥で、
 玲奈の姿が揺れて見える。

だが——
 楓の瞳は、これまでとはまったく違う色をしていた。

深く、静かで、底が見えない。
 怒りを超えた、決定的な“拒絶”の色。

「……出ていけ」

低く、静かで、震えるほど冷たい声だった。

玲奈は目を見開いた。

「え……?」

「今すぐ出ていけ。
 二度と……明莉さんの前に現れるな」

怒鳴り声ではない。
 淡々としているのに、
 その言葉は刃より鋭く、逃げ場がなかった。

「ち、違うの……!私は……明莉ちゃんを——」

「黙れ」

その一言で、空気が凍りついた。

楓は明莉を抱きしめたまま、
 玲奈を一度も見ずに続けた。

「あなたがしたことは、
 “取り返しのつかないこと”です」

玲奈の呼吸が止まる。

「明莉さんを傷つけた。
 泣かせた。
 怯えさせた。
 そして……今、命を奪いかけた」

楓の声は震えていた。
 怒りではなく、悔しさで。

「あなたを……許すつもりは一生ありません」

その言葉は、
 楓という人間が生きてきた中で、
 最も重く、最も冷たい“拒絶”だった。

玲奈の膝が崩れ落ちる音がした。

「……やだ……やだよ……明莉ちゃん……」

泣き崩れる玲奈に、
 楓は一度も視線を向けなかった。

明莉の血で濡れた手を握りしめながら、
 ただひとつの思いだけが胸にあった。

(守れなかった……
 でも……絶対に……もう二度と……)

楓は明莉の額にそっと触れ、
 震える声で呟いた。

「……あなたを傷つけるものは……
 僕が全部……排除します」

それは怒りではなく、
 誓いだった。