こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

明莉の身体が、ゆっくりと崩れ落ちていく。

その瞬間——
 楓の世界が、音を立ててひっくり返った。

「明莉さん!!」

叫びながら、楓は倒れ込む明莉を抱きとめた。
 腕の中で、彼女の身体はあまりにも軽く、あまりにも冷たかった。

「明莉さん……! 明莉さん!!」

声が震える。
 喉が焼けるように痛い。
 胸の奥が、裂けるように苦しい。

明莉の手が、楓の服をかすかに掴んでいた。
 その弱々しい力が、逆に楓の心をえぐった。

「どうして……前に出たんですか……!
 どうして……!」

涙が滲む。
 怒りでも、悲しみでもない。
 ただ——恐怖だった。

彼女を失うかもしれないという、
 生まれて初めて味わう“恐怖”。

「明莉さん……お願いです……目を開けて……」

楓は震える手で、明莉の頬を撫でた。
 血が指先に触れる。
 その温度が、楓の理性を一瞬で吹き飛ばした。

「……っ……!」

胸の奥で、何かが爆ぜた。

怒りではない。
 憎しみでもない。

守れなかった自分への、どうしようもない悔しさ。

「明莉さん……!
 お願いだから……行かないで……!」

声が掠れる。
 涙が落ちる。
 腕の中の明莉は、返事をしない。

そのとき、背後で震える声がした。

「……明莉ちゃん……私……そんなつもりじゃ……」

玲奈だった。

楓はゆっくりと顔を上げた。

その瞳は、
 これまで見せたことのない“色”をしていた。

静かで、深くて、底が見えない。

怒りでも、憎しみでもない。
 ただひとつの感情だけがそこにあった。

——明莉を奪われたくない。
 明莉を傷つけるものは、絶対に許さない。

楓は明莉を抱きしめたまま、
 震える声で呟いた。

「……あなたが……明莉さんを……」

言葉が途中で途切れた。
 怒りが強すぎて、声にならなかった。

ただ、ひとつだけ確かなことがあった。

楓はもう、誰にも明莉を触れさせない。