こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

「明莉さん!」

背後から楓の声がした。
 仕事から早めに戻ってきたのだ。

楓は明莉を抱き起こし、
 玲奈を強く——しかし冷静に——突き放した。

「明莉さん。大丈夫ですか?」

明莉は震えながら、かすかにうなずいた。
 その瞳には涙と恐怖が混ざっていた。

そのとき。

玲奈はゆっくりと立ち上がった。
 手には、キッチンから持ち出したらしい包丁。

銀色の刃が、リビングの灯りを受けて冷たく光った。

明莉の視界が真っ白になった。

「やめろ!!」

楓が玲奈の腕を掴んだ。
 だが、玲奈は狂ったように振り払った。

刃が——
 楓に向かって振り下ろされる。

(……あ……)

気づいたときには、
 明莉は楓を突き飛ばし、
 自分が前に出ていた。

鋭い痛みが走る。

「明莉さん!!」

楓の叫び声が、遠く聞こえた。

明莉の身体が崩れ落ちる。
 床に触れる感覚が、やけに遠い。

(……楓さん……ごめん……)

意識が、暗闇に沈んでいった。