こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

その瞬間——
 中から一枚の封筒が滑り落ちた。

市役所の封筒。

玲奈は反射的に拾い上げた。

宛名には、はっきりと印字されている。

「重森 明莉 様」

(……重森……?
 明莉ちゃんが……?)

手が震える。

封筒の口が少し開いていて、
 中身が覗いていた。

そこには——

「婚姻届受理証明書」

という文字。

玲奈の心臓が、どくん、と跳ねた。

(……結婚……?
 明莉ちゃんが……?
 重森さんと……?)

さらに、封筒の奥にもう一枚紙が見えた。

「婚姻契約書(控)」
 「条件」
 「秘密保持」

その文字が、玲奈の視界に焼きつく。

(……契約……?
 契約で……結婚……?
 どういうこと……?
 明莉ちゃん……私に何も言ってない……)

喉の奥が熱くなり、視界が揺れた。

(違う……
 違うよね……?
 明莉ちゃんは……
 私の……
 私だけの……)

その瞬間——

玲奈の中で“何か”が完全に壊れた。

胸の奥で、
 長い間押し込めていた感情が、
 音を立てて崩れ落ちる。

愛情と執着の境界が消え、
 現実と願望の境界が溶け、
 ただひとつの思いだけが残った。

(奪われた……
 明莉ちゃんを……
 私から……)

夜の静けさの中で、
 玲奈の呼吸だけが荒く響いた。

玄関灯の下で、
 彼女の影がゆっくりと歪んでいく。