こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

「あなたは悪くない。
 悪いのは——あなたを追い詰めた人間です」

その言葉に、明莉の瞳が揺れた。

「楓さん……怒ってる……?」

「怒っています」

楓は隠さなかった。
 隠す必要もなかった。

「あなたを泣かせた相手に対しては、僕は怒ります」

その声は低く、静かで、
 しかし確実に“臨界点”に達していた。

明莉の手を握りながら、楓はゆっくりと立ち上がった。

(もう……静かに見ているだけではいけない)

玲奈は一線を越えた。
 明莉の生活に踏み込み、恐怖を与え、泣かせた。

それは、楓にとって“許されない行為”だった。

玄関の外に残ったヒールの跡。
 何度も行き来したような乱れた軌跡。

(執着だ)

楓の胸の奥で、怒りが静かに形を持つ。
 炎ではなく、鋭く研ぎ澄まされた刃のような怒り。

明莉を守るためだけに存在する、
 深くて、静かで、逃げ場のない怒り。

明莉は震える声で言った。

「……私が……ちゃんと断れなくて……」

「明莉さんのせいではありません」

楓は膝をつき、明莉の手を包み込んだ。
 その手は冷たく、細かく震えていた。

「あなたは悪くない。
 悪いのは、あなたを追い詰めた側です」

その言葉は、
 明莉を慰めるためだけではなかった。

楓自身の“宣告”でもあった。

(明莉さんを……二度と泣かせない)

その決意が、静かに、確実に固まっていく。