こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

「もう大丈夫です。僕がいます」

声は静かだった。
 だが、その静けさは“嵐の前”の静けさだった。

玄関の外には、足跡が残っていた。
 小さなヒールの跡。
 何度も行き来したような、乱れた軌跡。

(……執着だ)

楓はゆっくりと息を吐いた。
 怒りは、もう抑えきれないところまで来ていた。

部屋に戻ると、明莉をソファーに座らせた。
 明莉は両手を胸の前でぎゅっと握りしめていた。
 肩が震えている。

「……ごめんなさい……私が……ちゃんと断れなくて……」

「明莉さんのせいではありません」

楓は膝をつき、明莉の手をそっと包んだ。
 その手は冷たく、細かく震えていた。

楓はその震えを、ひとつひとつ確かめるように指を絡めた。
 まるで「ここにいる」と伝えるように。

「あなたは悪くありません。
 悪いのは——あなたを怖がらせた側です」

その声は低く、静かで、深かった。
 怒鳴り声よりもずっと強い“怒り”が滲んでいた。

明莉は涙をこぼしながら、楓の手を握り返した。

(楓さん……怒ってる……)

その怒りは、誰かを傷つけるためのものではない。
 明莉を守るためだけに燃えている怒り。

楓の瞳の奥で、静かな炎が揺れた。
 それはもう、消えることのない決意の光だった。