こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

楓が仕事に出ていったあと、家の中は静かだった。

(……大丈夫。ここは楓さんの家。安全な場所)

そう言い聞かせても、胸の奥のざわつきは消えなかった。

ソファに座ってテレビをつけても、
 音だけが空回りして、心はどこにも落ち着かない。

(なんでだろう……なんで、こんなに不安なんだろう)

そのとき——

インターホンの音が鳴った。

——ピンポーン。

突然の音に、心臓が跳ねた。

(誰……?)

楓は鍵を持っている。
 だからインターホンを鳴らすはずがない。

ゆっくりと画面を見ると、そこには——

玲奈が立っていた。

笑っている。
 いつもの“友達の顔”。

なのに、その笑顔が怖かった。

画面越しなのに、背筋が冷たくなる。
 胸の奥のざわつきが、一気に形を持って迫ってくる。

(……なんで、ここに……?)

指先が震える。
 呼吸が浅くなる。

玲奈は、まるで遊びに来たかのように手を振った。
 その仕草が、妙にゆっくりで、妙に優しくて——
 逆に、恐怖を煽った。

「明莉ちゃーん、いるんでしょ?」

スピーカー越しの声が、
 家の中の静けさを切り裂いた。

その声は、
 “友達”のものではなかった。

明莉の胸の奥で、
 何かが小さく悲鳴を上げた。