こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

「支えてきた、ですか」

「そうよ。明莉ちゃんは私がいないとダメなの。あなたにはわからない」

その瞬間——
 楓の中で“怒りの温度”が一段上がった。

まだ爆発はしない。
 だが、確実に近づいている。

「……あなたは、明莉さんを“支えている”のではなく——」

玲奈が息を呑む。
 楓は静かに続けた。

「“縛っている”だけです」

玲奈の表情が、初めて歪んだ。

「なにそれ……どういう意味……?」

「意味は、あなたが一番よく知っているはずです」

楓の声は低く、冷たかった。
 怒りはまだ抑えている。
 だが、抑えきれるのは——もう長くない。

「……明莉ちゃんは、あなたなんかに渡さない」

その言葉に、楓の胸の奥で“何か”が音を立てた。

(……渡さない?)

その響きは、まるで“所有”の宣言だった。
 愛ではなく、支配。
 守るための言葉ではなく、奪うための言葉。

楓はゆっくりと息を吸い込む。
 冷たい空気が肺を満たし、心の奥の炎をさらに研ぎ澄ませる。

「……あなたが何をしたのか、必ず確かめます」

その声は、静かで、鋭く、決意に満ちていた。

玲奈の瞳がわずかに揺れる。
 笑顔はもう戻らない。
 廊下の空気が、張り詰めた糸のように震えた。

(明莉さんを守る。どんな闇でも、踏み込む)

楓の背中に、冷たい光が差した。
 それは怒りではなく、覚悟の色だった。