「……あの所作、明らかに貴族令嬢として教育を受けているよな?」
「……信じられませんが、この周囲にあの年代の貴族令嬢、そしてあの色合いに当てはまる一人しかいません。……リティリア・レトリック男爵令嬢で間違いないでしょう」
「まさか」
「俺も信じられませんが」

 救護所から距離をとると、副隊長のシードと俺は、何か魔獣にでも化かされたかのように顔を見合わせた。
 貴族令嬢は、いつもきらびやかな場所にいて、着飾り、自分自身のことすら人に任せる。
 それは、偏見などではなく、男爵家であろうとそれが一般論だ。

「リティリア・レトリック」

 前線にかり出され続け、誰からも認められない毎日。そんな生活に嫌気がさし、いつ死ぬかもわからないことすら、それでいいと思っていたのに……。

 その日から、あるできごとで王都に呼び戻される日まで、俺は魔獣との戦いの合間、救護所で自ら働く美しい少女、リティリア・レトリック男爵令嬢を、気がつけば目で追っていた。