「ここは、伯爵家の人間が赴任されるべき場所ではありません」
「まあ、俺が伯爵家の人間だと認められていたならな」

 しかし、領地の中心には救護所が建てられ、困窮しているにもかかわらず、物資も潤沢にあった。

「なあ、困窮しているというのは、誤情報か?」
「おかしいですね。聞いた惨状によれば、もっと荒れていてもおかしくないはずですが」

 その時、身なりのよい少女が、俺の前を水が入った桶を抱えて通り過ぎていった。
 細くか弱い白い腕。一見して、力仕事などしたことがないとわかる少女。

 思わず視線で追いかければ、その少女は救護所へと入っていった。
 整えられた淡い茶色の髪を、無造作に結んで、淡い紫色の瞳は、一度見たら忘れられない。

 思わずのぞき込んだその場所で、少女は膝をつき、ドレスが汚れてしまうのも気にせずに、けが人の世話をしていた。