お姫様抱っこされて、驚きのあまり何も言うことができないままの私。
 そんな私を抱えたまま、騎士団長様は足早に歩き始める。
 長い廊下は、先ほどまでの閑散とした雰囲気が嘘のように、花があふれて華やか。
 そして、すれ違うたびに、使用人たちが洗練されたお辞儀を披露していく。

 騎士団長様は、そのまま速度を緩めることなく、階段を上り始める。
 ゆらゆらと不安定なのが怖くて、私は思わず騎士団長様の首に手をまわしてすがりついた。

 目的の部屋にたどり着いたのか、器用に私を抱えたまま扉を開けた騎士団長様は、広いバルコニーへと私を連れ出した。
 すでに夜の帳は降りて、真っ暗な夜空に月と満天の星が輝いている。

 その場所で、ようやく私は、腕の中から解放された。

「――――騎士団長様?」
「少しだけ、思い出話を聞いてくれるかな」

 急にくらい場所に出たから、月明かりだけでは、騎士団長様の表情は見えない。

「3年前……。遠征先で、美しい少女に出会った」

 暗闇に目が慣れてくる。
 月の光に照らされた騎士団長様の表情は愁いを帯びていて、美しくて、黒い髪の毛は夜に紛れて消えてしまいそうで、どこか儚い。

 そのまま、騎士団長様が話してくれたのは、私が婚約破棄をされる直前、3年前の騎士団長様の話だった。