一つ深呼吸をする。ご迷惑を掛けたくはないけれど、もしも一人でいるときに何かが起こったら、もっと迷惑を掛けてしまうに違いない。

「――――お言葉に甘えます。それから、オーナーにも匿ってもらえないか聞いてみ……」

 次の瞬間、私の唇は騎士団長様の指先で、ぷにっと押さえられていた。

「ひゃっ!?」

 その指先は、私の見た幻だったみたいに、すぐに離れていく。
 ジンジンとしびれてしまった、私の唇を残して。

「今の言葉は、聞き捨てならないな」
「えっ、騎士団長様?」
「もちろん、ここに泊まっていかないかと聞いたのは、リティリア嬢の安全を確保する為もあるが……」
「……ありがとうございます」

 なぜなのかしら、急に獰猛に見える笑顔で笑った騎士団長様。

「ここまで、はっきり伝えていても、わからないか? ……違うだろう?」
「え?」

 いつも、優しく笑っていて、お店の中でどこか遠慮がちに過ごす騎士団長様と、目の前にいる人が違う人に見えてしまう。
 それなのに、胸がひどく苦しくなるのは……なぜ?

「リティリア嬢と、一緒にいたいという俺の気持ちに気がつかずに、ほかの男の庇護を求めるなんて、ひどくはないか?」
「え、ええ!?」