「おいしいです! でも、こんなにたくさん。騎士団長さまは、朝食以外はよく食べるのですね?」
「……今夜は特別だ」
「そうなのですか?」

 レトリック男爵家の食事は、没落する前からどちらかといえば質素だった。
 懐かしい故郷。もう離れてから3年も経つのね……。

「ところで、明日は店休日だな?」
「そうですね。早朝にお会いできないのが残念です」
「……明日は、少しだけ付き合ってくれないか?」

 お肉は柔らかくて、ナイフなんていらないのではないかと思いながら、切り分けていた私は、その言葉に顔を上げる。

「先約があるだろうか」
「いえ……。とくに何も」
「そうか。ところで、泊っていかないか?」
「えっ!?」

 聞き間違いかと思って、淡いグリーンの瞳をまっすぐに見つめてしまう。
 けれど、騎士団長様は、ほんの少しだけ口の端を歪めた。