「俺しかいないから、気負わないでほしい」
「……ありがとうございます」
「ドレスを贈りたいな」
「……え、遠慮します」

 そこまでしてもらうわけには、いかないわ。
 レトリック男爵家も、徐々に立て直している。
 どうしても、必要なものであれば、最低限買うことはできるはずだ。

 騎士団長様が差し出した手を取る。
 今度は、ゆっくりと私に会わせたスピードで歩き出した騎士団長様。
 私は、その後に続く。

「あれ? 廊下に花が飾ってありますね」
「…………」

 黙ってしまった騎士団長様。
 不思議なことに、至る所に花が飾られて、先ほどこの場所に来たときの閑散とした雰囲気が消えている。

「……普通に、客をもてなすだけだと言ったはずなのだが」
「……え、本当に私、この格好でご一緒していいのでしょうか」

 食堂の扉を開いた私たちは、しばらくのあいだ、その場で動けなくなった。
 私たちに頭を下げる使用人。

 王宮の晩餐会かな? というぐらい豪華で品数が多い色とりどりの食事が並べられた食卓。
 それを背景に、ずらりと並んだ使用人が私たちを出迎えていた。