「うれしくて」
「え……?」
「そんな風に、リティリア嬢に心配してもらえることが、うれしくてつい……な」
「へ……!?」

 冗談を言っているようには見えない、真剣なまなざし。
 予想外の返答に、目をそらすのも忘れて、見つめ返してしまう。
 遅れてやってくる羞恥。

 ……こ、これは。大きな声を出したりしたから、仕返しなのかしら。
 まさか、騎士団長様に限って、そんな子どもっぽいことしないわよね?

 微笑んだままの騎士団長様は、私をエスコートしていた手をそっと離して、私に正面から向き合った。
 なぜか、その表情は緊張しているようにも見える。

「……もし、リティリア嬢が、ここで待っていてくれるなら、毎日全力で帰ってくる」
「あの……」
「もちろん、仕事柄、遅くなる日も、長期留守にすることもあるだろう。だが、全力で帰ってくると誓おう……」
「……それって」

 そんな言葉、まるで……。
 私は、一瞬だけ浮かんだ思考を振り払う。
 さすがに、没落しかけの男爵令嬢が、勘違いしていい内容ではないもの。