気まずい沈黙を振り払うように、騎士団長様は、無言で馬車の扉を開けて降りていく。
騎士団長様は、少しだけ視線をそらしたまま、それでも流れるような仕草で私の前に手を差し出した。
「……手を、リティリア嬢」
「はっ、はい」
騎士団長様の耳元は、ほんのりとまだ、赤みを帯びている。
その色を、見ないように気をつけながら、私は慎重に踏み段を降りた。……つもりだった。
「きゃ!」
「リティリア!」
何の変哲もない、飾り気のないワンピースの裾がフワリと揺れる。
軽く手を引かれた感触のあと、トスンッと軽い衝撃だけ訪れる。
強くつぶってしまった目を、ソロソロと開けば、私の頬は厚い胸板にピタリとくっついていた。


