「わぁ……」

 柱に触ってみれば、石のヒンヤリした感触まで再現されていた。
 塗装していない……。ローズピンクの石を使っているのね。
 こんな美しい建物が、王国の外に本当に存在するなんて。

「美しいな」
「はい。本当に……」

 後ろからかけられた言葉に驚いて振り向く。
 そこには、目の下に隈があり、疲労をにじませる騎士団長様がいらっしゃった。

「わ! 申し訳ありません。いらっしゃいませ」
「……ああ」

 微笑んだ騎士団長様。
 昨日お会いして以来だけれど、やっぱりお疲れのようだ。
 試合の後も、お仕事があるみたいだったもの。

 ――――それにしても、いつも店内の装飾にはしゃいでいるところを見られてしまって、恥ずかしいわ。

「こちらの席にどうぞ」

 騎士団長様の指定席は、お店の端、窓のない外からは見えづらい席だ。
 石で作られたテーブルと椅子は、お店と一緒でローズピンク色をしている。

「コーヒーと、そうだな? 軽く何か食べたい」
「…………では、サンドイッチなどいかがでしょうか?」
「それを貰おうか」

 カフェフローラのサンドイッチには、妖精が蜜を取り出す花が、隠し味として添えられている。
 蜜を取り出された後は、ほんの少しピリリと辛い花。

 いつもコーヒーだけ飲んで帰る騎士団長様が、食事をするなんて珍しい。

「コーヒーは、いつお持ちしますか?」
「先に貰えるかな。……失礼」

 騎士団長様は、やっぱりお疲れみたいで、小さなあくびをかみ殺した。
 それを見た私は、急いでコーヒーを淹れて、そっとテーブルに置く。
 一口それを飲んで、口元を緩めた騎士団長様は、やっぱり昨日の凜々しくて、カッコいい騎士団長様とは、どこか違う気がするのだった。