「あの、これ以上私には」
「……困ったわ」
そのとき、魔女様がため息交じりに口を開いた。
紫色の瞳は、深くて、それでいて吸い込まれそうなほど透明感がある。
あからさまに、騎士団長様が眉を寄せたのを視界の端に捉えた。
「思ったよりもたくさん採って貰ったから、対価のバランスが崩れてしまったわ」
魔女様がそう告げたとたん、氷の世界はいつもの見慣れた春の庭へと変わる。
赤い三角屋根の魔女様の家が、白く霞んでいた景色が消えると同時に現れた。
「もうすぐ消えてしまいそうだったから、対価に釣り合うくらいの収穫量だと思ったのに……。果樹園の手伝いをしたことでもあるの?」
「ん? レトリック男爵領で、魔獣被害で人手が集まらないと困っていた農家を少しだけ手伝ったな」
「えっ」


