なぜ、騎士団長様は、私に笑いかけたのかな。
 嫌われてはいないよね。
 きっと嫌いな人に、こんなに大切なものをくれたりしないもの。

 ……でも、私に好意を示してくれていると思うには、今日の騎士団長様は、あまりに強くてかっこよすぎたから。

 銀の薔薇は、貴族令嬢にしては、あまりに空っぽな、宝箱代わりのオルゴールにしまっておく。

 次、会えたなら……。

 クマのぬいぐるみが、抱きしめすぎて、形を変えていたことに気がついて、慌てて力を緩める。

 たぶん、私は恋愛や、誰かを好きになることに臆病になってしまっている。
 誰かのためにがんばって、それなのにわかってもらえないのは、とても悲しいもの。

 でも、会いたい。
 それだけは、認めるしかないほど強く願ってしまう。

 目をつぶると、淡い緑色の瞳が、甘く細められた、あの表情がまぶたの裏に浮かんだまま消えない。

 私は、クマのぬいぐるみを抱きしめて、眠れない、少しだけ蒸し暑い夜を過ごしたのだった。