……私は、カフェフローラに来たときの騎士団長と、試合でかっこよかったことと、先ほどの笑顔しか知らない。

 普段はいったいどんな表情をされているのだろう。いつもあんな風にカッコいいのかしら。

「こんなに可愛らしいクマのぬいぐるみを持ってきてくれた騎士団長様と、試合であんなにも凜々しかった騎士団長様とは、本当に同一人物だったのかしら」

 そんなとりとめのないことを考えてしまうくらい、今日の出来事は、衝撃的だった。

「……ただいま」

 ベッドに置きっぱなしだった、クマのぬいぐるみに帰宅を告げて、抱きしめて、ようやく一息つく。

「全部、夢だったのでは……」

 そう考えた方が、よっぽど納得いく。それなのに、今日というこの日が、夢なんかじゃなかったとでもいうような、手の中の重み。

 キラキラ輝く、遠目には本物にしか見えなかった銀色の薔薇を改めて見つめる。

 クマのぬいぐるみのお返しをしようと思ったのに、なぜ私はこんなに高価な品物を受け取ってしまったのかしら。

 クマのぬいぐるみなら、お小遣いを使えば、私でもお返しの贈り物ができるのに……。

「やっぱり、貰いすぎだよね……」