目の前にいて、笑顔のまま少し慌てているお方は、この国ディアンテールの国王陛下のはずだ。
それなのに、誰よりも陛下に忠誠を誓う騎士団長様が、剣に手をかけるなんてありえるはずが……。
(かけている! 明らかに剣を抜こうとしている!)
緊張のあまり固まってしまった私の前を長いローブを羽織ったオーナーが通り過ぎる。
そして、パチンッと指先をひとつ鳴らすとその姿は筆頭魔術師の正装から、シャツ、そして揃いのズボンとベスト、丈の長いソムリエエプロンという姿になった。
よく見かけるユニフォームのようでありながら、人外の美貌で微笑むオーナーが着ると別次元の麗しさだ。
「お客様、店内で刃物を持ち出されるのは困りますね」
「……シルヴァ殿、すまない」
「おや、シルヴァまで怒っているのか。珍しい」
「ええ、リティリアに手を出すなら誰であろうと許しません。それからあまり護衛を困らせるものではありません」
「それは……」


