「……あー、割れてしまいましたね」
アイスコーヒーのグラスが割れて散らばっている。
「……痛っ」
破片を拾い上げようといたとき、指先をほんの少し傷つけてしまった。
そのときだった。
「あっ!?」
私の手を無言で掴んだオーナーの手から、金色の光が湧き出す。
私の傷と、アイスコーヒーの汚れは、一瞬にしてなかったことになった。
「……オーナー」
「良かった」
そっと手が離される。
心から安堵したような笑みを浮かべるオーナーは、儚いほどに綺麗で、私はしばらく時を止めたようにその瞳を見詰めた。
「あの、魔法は使えないんじゃ」
「完全に使えないわけじゃない。だからそんな顔しないでリティリア」
だって、魔法のせいで命を失いかけた直後なのだ。無理をしたのではないかと、心配になってしまう。
「でも、今までのように、力を使うことはできない。だから、どうか怪我をしないでくれないかな」
「気をつけます……」
「まあ、今のは俺が悪い」
先ほどまで、たくさんの足音で騒がしかった店内が、少しだけ静かに感じる。
周囲を見渡してみれば、たくさんいたはずのクマは、いつの間にか騎士団長様が贈ってくれた男の子と女の子のペア一対だけになっていた。


