けれど、もう願いは叶えられてしまったのだ。
 私が対価を払わなければ、魔女様も困ってしまうに違いない。

「……まあ、倒れたあなたをあの場所から連れ戻して助けたことだけだもの。たいした対価じゃないわ」

 魔女様は、カフェ・フローラの扉のノブをガチャリと回した。

「これから先ずっと、私が注文したときに、カフェ・フローラの日替わりコーヒーとお菓子を届けてちょうだい?」
「えっ、そんな簡単な」
「ふふ。簡単だと思う? 魔女はとても長い時を生きるの。だから、あなたが婚約しても、結婚しても、そしておばあちゃんになっても、私にコーヒーとお菓子を届けるのよ? できるなら、あなたたちの子どもも来てほしいわね」

 微笑んだ魔女様は、いつもの少し恐ろしい雰囲気が消えて、どこか母を思い出させる。

「でも、オーナーの魔法が使えないなら、カフェ・フローラは……」
「ふふ。見てご覧なさい」

 扉が開けば、新緑の香りとともに出迎えてくれたのは、蝶ネクタイとベストを身につけ二本足で立つ、森のくまさんぬいぐるみだった。