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 その日は朝から大変だった。
 私だけではない。王都にいる貴族令嬢や夫人は、皆同じ思いをしているに違いない。

「リティリア様は、お肌がすべすべですね!」
「あ、あのっ」

 効果な香油が落とされたお風呂で、磨き抜かれ、そのあとは温められたオイルを全身くまなく塗り込まれた。

 ぐったりしているまもなく、久しぶりのコルセットを締められて、忘れかけていた苦しさを嫌でも思い出したあと、淡い紫のドレスを身にまとった。

 パタパタとお粉をはたかれて、塗られていくお化粧品。普段も薄いピンク色の口紅は塗るけれど、今日は本格的だ。

「さあ、出来ましたよ!」

 侍女の声に、ぱちりと目を開けると、見違えるほどに可愛らしくなった自分がいた。
 本当に、ヴィランド伯爵家の侍女たちは素晴らしい。

「…………えっと」

 騎士団長様に、早くこの姿を見せたいけれど、やっぱり恥ずかしくてモジモジしていると、しびれを切らした侍女たちが扉を開け放ってしまった。

 目の前には、白い正装に紫色の飾り紐をつけた騎士団長様がいた。
 髪の毛を上げた姿は、あまりにカッコよすぎて、可愛くなったと思っていた自分のことが恥ずかしくなってしまうほど麗しかった。