「それにしても、裏口とはいえ、目立ってしまう……」
「ふふ。愛されているのね」
「か、からかわないでっ」
「そう? どう見ても騎士団長様は、リティリアに……。でも、馬車を待たせてしまうのは悪いわね。あと少しだから、つい寂しくて」
「ダリア……」

 結婚しようと言った騎士団長様。
 もちろん結婚してしまえば、今までのように働くなんて出来ないことは理解している。
 ダリアの言うとおり、この場所で働くことが出来るのもあと少しだ。

「カフェ、フローラ」

 オーナーは、私のためにこの場所を用意してくれたと言っていた。
 走り出した馬車の窓から見えたのは、ピンク色の可愛らしいレンガ、ちょこんとした小さなお店。

 その外観は、相変わらず私の好みのど真ん中だった。

 そのまま走る馬車は、騎士団長様の邸宅へ。
 すっかり、ここが帰る場所になっている。
 出迎えてくれる使用人は、みんな笑顔で待っていてくれた。

「お帰りなさいませ」
「ただいま帰りました」

 夜会は不安だけれど、その場所で騎士団長様の婚約者として正式にお披露目される。
 そのあとは、この温かい家で、きっと幸せな毎日が、待っている。そんな予感がした。