「……泊まっていくだろう?」
「え?」
「料理長には連絡しておいた。リティリアに会えると、小躍りしていたよ」
「い、いつの間に?」
「まあ、合間にな」

 騎士団長まで上り詰めるお方というのは、何でも出来るのだろうか。
 一人感心しながら手を引かれ歩いて行く。

「あと、一週間程度の休みがある。明日は一緒に、ドレスに合う装飾品でも揃えに行こうか」
「え?」
「面倒かもしれないが、ヴィランド伯爵家の婚約者として、ある程度の体裁を整えてもらわなくてはいけない。そうそう、それから魔鉱石を加工してもらおう」

 そう言って、騎士団長様はポケットから魔鉱石の原石を一つ取り出した。

「あ、いつの間に……」
「うん、魔女の家に飛ばされる直前、足元に転がってきたんだ。割ってみようか」
「え? でも、ハンマーもノミもないですよ」
「問題ない」

 騎士団長様が魔力を流すと、原石は銀色に輝いた後、パカリと真っ二つに割れた。

「す、すごい……。それに、なんて綺麗な石」
「ああ、これは当たりだな。妖精からの贈り物かな?」

 騎士団長様の手には、少し小ぶりだけれど、高品質な魔鉱石が乗っている。

「ちょうど、指輪に加工するのに良さそうだ。今日中に魔力を込めておくよ」
「えっ……」

 そう言って笑った騎士団長様のご尊顔は、あまりにもまぶしい。
 まるで、南の海に日が当たって反射したみたいにキラキラしている。
 少しだけ強面な印象がある騎士団長様は、笑うと急に可愛くなるのだ。

 その笑顔に胸をときめかせた私は、アーサー様のお屋敷に泊まるという事実をすっかり忘れ、手を引かれていったのだった。