「あの、騎士団長様」
「……断るなんて、やめてもらえないか」
「……ふふっ、私の部屋は、反対方向です」
「……そうか」

 歩みを緩めた騎士団長様が振り返る。
 慌てて反対方向に歩き出してしまうなんて、どこか子どものような騎士団長様が急にかわいく見えてしまって、私はつい笑ってしまった。

 騎士団長様は、私を小さなアパートの前まで送ると、籠を私に手渡した。

「また……。会いに行ってもいいだろうか」
「え? いつでもお待ちしています」

 次の瞬間、なぜか冷たい表情も鋭い視線も完全に消して微笑んだ騎士団長様の顔は麗しすぎて、たぶん一生忘れることなんてできそうもない、そう思ってしまった。