「強い魔力の気配に足を踏み入れようとするから、何かに巻き込まれたのではないかと……」

 しかも、あのとき手を掴んだのは、私のことを心配してくれたからだったらしい。

「ありがとうございます。私のことをかばってくださって、うれしかったです」
「……当然だ」

 さすが、騎士団長様ほどのお方は、高潔だ。
 自分よりも、一般市民の身の安全を優先するなんて。
 感動して見上げた騎士団長様の耳元は、なぜか少し赤い。

「さ、リティリア嬢。家はどこだ? 送っていこう」
「……ありがとうございます。でも、すぐ近くのアパートなので、大丈夫ですよ」
「アパート? ……一人で住んでいるのか?」
「ええ。王都には、私一人で来ました」

 王都に来るまでには、いろいろなことがあった。
 没落してしまったレトリック男爵家には、私に支援するほどの余裕はない。
 だから、私はカフェで働いて、自活している。

「――――最近は王都も物騒だ。令嬢が一人暮らしなんて……」
「え?」
「……やはり、送っていこう」

 籠を抱えたまま、なぜかもう一度私の手を掴んだ騎士団長様が歩き出す。
 歩幅に違うその歩みに、自然と小走りになりながら進む。