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「リティリア・レトリック男爵令嬢、君との婚約を破棄する」
「ギリアム様?」

 流行病で母を亡くし、レトリック男爵領に起こった数々の不幸な出来事。
 魔鉱石を産出し、潤沢な資産を持ったレトリック男爵家は、危機に瀕していた。

「それは、いったい……」
「言葉通りだ。俺は、隣にいるピエーラ・ジュリアス男爵令嬢と婚約を結び直すことになった」
「そんな……」

 ピエーラ・ジュリアス男爵令嬢と私、そしてギリアム・ウィアー子爵令息は、幼い頃からの友人だった。

 ピエーラも、私とギリアム様の婚約を祝ってくれていたのに、まさか。

「それに、ピエーラのことを馬鹿にして嫌がらせをしていたそうじゃないか」

 ……そんな、そんなことしていない!!

 叫ぼうとした言葉は、渇ききってしまった喉に阻まれて、声にならなかった。
 不自然に打ち切られたという王家からの支援、契約とも言っていい婚約の一方的な破棄。

 けれど、そのことに、反論するほどの力が、今のレトリック男爵家には残っていなかった。

 その日、私は、恋はしていなくても、きっとお互いに助け合って生きていけると信じていた婚約者に、一方的に別れを告げられたのだった。