「なぜ、君が謝る?」
「実は……」

 次の瞬間、小さな扉が開いて、白銀の髪にアメジストの瞳をした、美しい女性が家の中から歩み出てきた。
 いつもの笑顔とは違い、女性の表情は、北端の氷山みたいに冷たく無表情だ。
 背中がぞくっと粟立つ。

「――――あら、今日は騎士団長様まで紛れ込んでしまったのね?」
「あ、あの!」

 偶然だという言い訳が通じるだろうか。
 魔女は、約束を守らない者を許さない。
 こうなったら、騎士団長様だけでもご無事で帰っていただかなくては!

「急に訪れた非礼をお許しください。偶然だったとはいえ……。すべての責は俺が負います。どうか彼女のことは、お許しいただけないでしょうか」

 意気込んで、口を開こうとしたとき、目の前で騎士団長様が、膝をついて、私よりも先に魔女様に許しを請う。
 どうしてそこまで……。
 驚いた私は、クマのぬいぐるみを思わず抱きしめる。

「…………ふーん。騎士団長アーサー・ヴィランド卿ね? あなたほどの人が、私に膝をつくなんてね?」
「あ、あの! 魔女様! 私の不注意で、ヴィランド様は一緒に来てしまっただけなのです!!」
「…………あら。珍しく必死なのね。ま、いいわ。中に入りなさい」