でも、願ってしまうのは、祈ってしまうのは、騎士団長様のことだから。

「っ、なぜ俺のことを心配していることが、自分勝手になるんだ」

 騎士団長様は、なぜか長いため息をつくと、私の頭を撫でていた手を、そっと頬まで下ろしてきた。
 冷たい手のひらが、熱くなってしまった頬に心地いい。

「……私が勝手に、好きになってしまって、優先させているからです。せっかく、騎士団長様が、領地のことを心配してくださっているの……っ!?」

 強引な口づけは、騎士団長様らしくない。
 目を閉じる暇すらなかったから、真っ黒で長いまつげが、目の前に見える。

 あわてて強く目をつぶる。

 頬に触れていた手が、スルリと背中を撫でて、私の腰を捕らえて抱きよせる。

「リティリアが、それをいうなら、俺ほど自分勝手な人間はいないだろうな」

 唇が離れても、抱き寄せられた体は密着したまま、レトリック男爵領の最初の街に着くまで、私たちは抱きあったままだった。