片足を揺らめく空気の層に踏み入れる。

「リティリア嬢!!」
「……えっ!?」

 ひどく慌てた声と、私の手を掴んだ大きな手。
 その声と、無骨な手に、私は覚えがある。

 次の瞬間、空間が大きく歪んだ感覚とともに、私は赤い屋根の小さな家の入り口に立っていた。

 一緒に来てしまったらしいお方と、二人仲良く手をつないだまま。


 つないだままの手は、離されることなく、ますます強く握られた。
 そのあと、まるで何かから守ろうとでもいうように背中にかばわれ、手が離される。

「――――すまない、巻き込んだか」
「え? あの」

 苦々しげにつぶやかれた言葉に、首をかしげる。
 どちらかというと、私が魔女様に会いに来るのに、巻き込まれたのは、騎士団長様の方だと思うけれど……。

「リティリア嬢、この命に代えても、君は無事に帰す」
「え? あの」

 ただ、七色のさくらんぼをもらいに来ただけなのに……。
 でも、そうとは言い切れないのかもしれない。

 ほかの空間からは、隔離されている魔女の敷地。
 ここに来ていいのは、魔女様が許可した者だけだ。

「ごめんなさい……」

 誰もいないことを確認してから、ここに来るべきだったのに。