「――――俺の隣にいてほしいのは、リティリア嬢だけだ。これから先、俺はリティリア嬢としか、踊る気はないのだが……。ダメだろうか?」
「うぅ……ダメではないです」

 騎士団長様は、あの日以来、なぜかグイグイ攻めてくる。
 ようやく恋心を自覚したばかりの私では、とても太刀打ちできない。
 やっぱり、騎士団長様は私よりもずっと大人だから、いろいろな経験があるに違いない。

「――――勘違いしないでほしいが」
「え?」
「俺は、3年前リティリア嬢を見てから、君のことしか考えていない重い男だ。それに、その直前までいた士官学校は厳しくて、訓練以外宿舎と学校の往復しかしていない」

 社交界から遠ざかってしまっていたから、実際に目にしてはいないけれど、騎士団長様が貴族夫人や令嬢にものすごく人気があることを私は知っている。
 だから、これはきっと私をなぐさめるための言葉に違いない。

「ふふ。ありがとうございます」
「申し訳ないが、ダンスはそれほど得意ではない。期待しないでくれ」
「わかりました! 私は結構得意なのです」
「そうか……。リティリア嬢と踊りたい人間は多かっただろうな」

 実際の所、婚約者のために必死になって練習したダンスが披露されることはほとんどなかった。
 すでに婚約者がいる私にダンスを申し込む人なんていなかったし、ギリアム様は婚約者としての最低限のダンスを最初に踊ったあとは、いつも友人たちの輪の中にいた。