「その、瞳か」
「…………」

 紫色の瞳は、珍しい。
 妖精や精霊が好む色だと言われている。

 騎士団長様の親指が、私の目元に触れる。

「騎士団長様……?」
「そうか。弟君も同じ色の瞳を?」
「……はい」

 私と違って出来がいい弟は、魔法を使うことができるけれど。
 この瞳をもって生まれただけなのに、なんの取り柄もない私は、あの森に入ることができる。
 弟は、一人でしか入れないけれど、なぜか私の場合は、一緒に来た人も、受け入れてもらえる。

 そのことを説明したら、騎士団長様は、ようやく厳しい表情から笑顔になった。

「そうか。このことを知っているのは?」
「父と、弟と、一部の採掘に関わる人たちだけです」
「なるほど、それなら王弟は、その瞳の色から察したのだな」
「…………一部の人間しか読めない資料に、記載されているのかもしれません」

 急に、元婚約者のギリアム様が訪れたのも、そのことが関係するのかしら……。

「俺も騎士団長になってから、権限で読めるものは、すべて読んでいる」
「……と、いうことは、騎士団長様は、もうすでに知っておられたのですか?」
「騎士団長、だからな。国内外の情報には精通している。それでも、君の口から聞きたかった」

 うつむいた私を、正面から騎士団長様が抱きしめた。

「君の力に、なれるだろうか?」
「力になれるもなにも、頼もしすぎます」

 ただ、私がしてあげられることがあまりないから、それだけがチクリと痛かった。