「今日の衣装も、可愛いな?」

 コーヒーを飲んで、栄養が偏らないように中身に気を遣ったサンドイッチを平らげると、騎士団長様は今日も席を立った。

「――――そうですね」

 これでもかというくらいバリューミーなパニエで広がったスカートは、歩くたびにフリフリと揺れる。まるで、空を飛ぶミツバチみたいだ。

 草原一面に咲いているのは、一つ一つは主張しない可憐な花々。
 けれど、一面に咲き誇っている景色は壮観だ。

 店内を満たすように、ほのかに香るのは、花の香りかそれとも甘い蜂蜜の香りか。

「ところで、この景色は、どこか君の故郷に似ているな?」
「……そう、ですね」
「……レトリック男爵領には、いつ向かう?」
「……来週には」
「そうか」

 そう、呼び戻されているのだ。
 そして、この景色は、私の故郷レトリック男爵領をモデルにしているに違いない。

 ……オーナーとで会ったのも、こんな場所だった。

「ひと月ほど、離れますが、お店をやめるわけではありませんから」
「……そうか、ひと月か」
「騎士団長様?」
「…………」

 黙り込んでしまったあと、騎士団長様はなぜか私を見て、困ったように微笑んだ。

「忙しくなりそうなんだ。 しばらく、屋敷に戻れそうもない。……ここにも来れないかもしれない」
「あ、そう……ですか」

 私、勝手に旅立つまで、毎日会えると信じていたらしいわ……。
 騎士団長様に会えなくなるだけでさみしいのに、出発直前に会えなくなるなんて。

 私は出発までの1週間、気落ちしたまま過ごしたのだった。