断片集


「なんだろ」
「さぁ」
二人で言い合って、でもすることも無くて歩いた。
一部分の壁には、インクがうつってしまっている。
さっき彼女が壁に寄りかかって書いていたのだろう。
うっすらと読める字は「LOVE」「3 5A」
…………バンドか何かの、歌詞?
船内図のどこにもラブとかを示すようなものは無い。クラスの集合写真のための落書きでも思案していたのだろうか。
目の前に見える客室のドアが開いていたので、ぼくたちはそちらに入った。
あの白いシャツの男がやってきて、そして、こちらを驚いた目で見た。何?
「部屋を間違えた」
雑に言って、ドアをばたんと閉められる。
えー…………
「なぁ、ネネ」
久しぶりに、名前を呼ばれて、ぼくは「ん?」と反応する。
「これは、なんだろう、ラムネかな?」
床に、ラムネみたいなものが落ちていたらしい。拾いながら首を傾げられる。
青くて丸くて、もしかしたらパイプを綺麗にするやつかもしれないけど、やっぱり、お菓子かな。
「落し物だよきっと。もしかしたら、さっきの男の人はここの部屋の人なのかも」
「だが、部屋を間違えたと言っておったぞ」
「うーん……間違えたかなー? と思ったんじゃない? ぼくたちが此処にいるから」
「だが、今日はステージが貸し切りってだけで、他の客は」
「そうなんだよね。単に照れ隠しなんじゃないかな」
「なるほど」
ポケットから、階段を降りる音がする。
やっぱりさっき会ったときに回収しておくべきだったなと思う。
二人で、ラムネをどうしようか考えつつ、下に向かう途中で、ナツに会った。
「ああ。久しぶり」
「お前、会う人ごとに久しぶりって言ってないか?」
「うん…………」
なんでだろう、なんとなく実感がわかない。
誰とも会っていないような、実感を持って、意思を伴ってそばに居てくれていたはずのものが、気付いたら似ている何かに置き換えられてしまって、そのままそうなってしまったような。
まるで、今まで似ていても違う人だったはずなのに、もはや似ている知らない人に成ってしまっているような……