断片集


「ねえ、あの頃のぼくたち、覚えてる?」
「ああ。覚えているよ。今更言うでもないが、特に二人は、かなりいかれていたな……」
「真くらいだよね、未だにあんなんなの」
先月、真に会いに行った話は、もしかすると、もうしないかもしれない。
まあ、あれだよ、めんどくさい。
あと、思い出したくないし。
あいつ、ぼくが誰かを連れてくるとすぐに疑心暗鬼になって暴れてしまうから、なだめるのが大変だった。どうも、あれだ。ぼくはたぶんヤンデレ属性に懐かれる傾向があるのではないか。でも、なんだか憎めないっていうか……はぁ。
「真は、元気なのかな。夢ちゃんのことは」
「言ってない」
「そうか……」
ユキは、少し沈んだ顔をした。夢ちゃんは、真のきょうだいだ。
そして、重なる実験と、真のアバンギャルドな性格に耐えられずに心を病んでしまって、ずっと精神科の病棟に入院しているんだけど、真の中からは消されている。
夢ちゃんは、普段は、うとうとと、部屋の中で眠っているのだ。
「あの子、たぶん、正常だと思う」
ぼくは言う。
「あの環境から離れて、それで、少しだけ平凡な場所に行けば、良くなる気がする」
「どうして」
「会ったことがあるけど、意思ははっきりしているし、感情もはっきりしている。でも、真に会いたくないのか上へ散歩に行こうとだけはしないみたい」
「それだけでは」
「わかっているよ。それだけじゃない。うまく、今は言えないけど」
「そういえば」
「ん?」
「どうしたんじゃ、あのスパイセットは」
「あー……仕掛けてきた」
「どこに」
「んー。なんか、怪しい人が居たから」
曖昧なことを言っていると、ユキは疑問そうにこちらを見る。
「アイドルにまるで興味無さそうな感じだったし」
「そんなことで、使ってもいいのか?」
「よくないけどなんか、気になって」
こわい目をしていた。昔から、なんとなく、そういう勘は当たる気がする。
「あ、後で回収に行くから! きっと気のせいだと思うし」
慌てて言うと、ユキはならいいけど、という顔でこちらを見た。
することもなく2階に上がる。2階に上がるタイルの一部分には白いハートが青地に描かれている。そういえば1階からおりたときは暗くてよく見えなかったけどそういうのがあったのだろうか。外は、いつのまにか雨なのか曇っている。
廊下の壁際では黒いシャツの女の人が、熱心に船内図と、なにかの書かれた紙を見ていて、こちらに気付くと、嫌そうな顔をしてどこかに行ってしまう。